飛鳥剣

橋本正武先生と額田長先生

 昭和四十年代の後半のある日、豊田師範の話。
 木村栄寿師範は、意を決して「夢想神伝重信流」の伝承者セミナーを開催。当時一流の先生方が、こぞって参加されましたが、私の場合、そのセミナーが終わって先生方が宿に戻られた後、誰もいなくなってから木村師範と神道無念流の稽古が始まります。
 稽古を終えて宿に戻ると、待ち構えていた額田長先生に毎回つかまって、今日はなに教わったの?なんの資料もらったの?と質問責め。額田先生は、とても探求心が深く私のような若輩に対しても垣根なく問われていました。全日本剣道連盟居合10本余りの頃、額田先生が「制定居合にも神道無念流いれといたよ。」とおっしゃられていたことを思い出します。

 一方、同合宿メンバー、橋本正武先生。どこに行っても、私を見つけると必ず「刀見せてよ」とせがまれ、刀を取り上げられてしまいます。いつも「いいねぇ~」となかなか返していただけません。もうすぐ演武なのでもうよろしいですか、と言っても、いいの、いいの、とおっしゃる始末。

橋本正武先生と額田長先生
橋本先生が使っているのは豊田師範の佩刀

 さて、木村塾の際、お二人と同じ旅館に宿泊した時のこと、遠くにいる敵を斬るにはどうやるか、と話題になり、それは「飛鳥剣」だよね、と一致しました。飛鳥剣とは、神道無念流の超遠間でつかう、文字通り敵に飛びかかる技。

 飛鳥剣には、秘剣が存在し「一来半飛鳥正剣」と言います。
 飛鳥剣は、片手で飛びながら切込むのですが、重要なのは、腕と手首から上の動き。体のバランス、そして一撃で致命傷を負わせるための重心の瞬間移動でしょうか。

久松鶴「飛鳥剣」神道無念流

 豊田師範の佩刀は、大和守秀國。新選組の土方歳三や井上源三郎と同じです。とても頑丈で切れ味も良く、現代刀を使われる先生と演武中、アクシデントで刀同士が衝突。現代刀は2センチほど刃がぽろり。秀國はびくともしなかったとのこと。

豊田師範の佩刀をじっくり賞玩する橋本先生
橋本正武先生
「飛鳥剣」談義-楽しい時間です。